閑話休題 裂かれた記憶
はは・・ ワシは なんも強くなんかないよ・・・
あん時は 何があったか よく理解してなかった
あとからだ 記憶が飛んでたんだな~ 所々 断片は蘇るんだな~
でも あれだ・・ 全体の記憶が蘇ったのは そうだなあ~ 今が幸せだと思ったときか?
いや あれだ・・ 子どもが生まれて 初めて 息子が 笑い声をあげたときだ・・・
こうやって 抱いてな
顔んとこまで持ち上げて あやした時に
きゃっきゃって 笑ってな
そしたら
唐突に 物凄い音が 頭の中で 鳴り響いた・・・ うん
明け方になると 父が 横たわってたのよ
満州でな 終戦の話しが伝わって
集団自決するって話しになってな
あんとき 母は なんでいなかったんだ?
未だに わからなくてな ははは
その日は なんだか みんなで 身支度してたのよ
そんときに どお~ん って 音が響いたのよ
あ~ 集団自決に 間に合わなかった って 父がな・・・
しゅうだんじけつ? そんときは 全然 意味がわからなくてな
そしたら 父が こどもたちに 銃口を向けたのよ
いま 思えば・・ そうだな~ なぶり殺しにあうくらいなら せめて 父の手で
そう 思ったんだろうな~ そう 狂気の なんだ? 狂気の・・さた? ・なせるわざか?
こどもたちの 頭を 撫でるんだよ 父がね
寝ている 弟たちの頭を
パンって 渇いた音がしてね
4人兄弟でね
ただ 死ななきゃならないんだな って 子ども心にね・・・
最後に ワシの頭を撫でて 泣いてる父の姿を見たのは 始めてで
それに 驚いて 不思議と 恐怖は感じなかったもんだ
今 思えば 身震いするんだけどな~ はは
カチって 音がしたのよ
目が覚めると
父が 弟たちが 頭から 血を流して 横たわって
ワシん時 不発だったんだな
そんで 父が何を考えたのか どう思ったのかはわからん・・・うん・・ わからん・・・
とにかく ワシだけ 生き残ってな・・・
どうやって にっぽんに帰ってきたのか それだけは 未だに 思い出せん
苦労したことだけは覚えてるんだがな
戦争はダメだ 人を不幸にする
なんも いいことなんかねえ
母がどうなったかすら わかんねえ
(この話しは) 墓まで 持っていくと決めてたんだがな・・・
今の世の中 誰かが 訴えなきゃならんと思ってな
こどもや 孫に おんなじ 思いさせたくねえでしょ?
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